オフにトレード要求してから、ずっと噂が続いていたハーデンのトレードですが、ここに来て急転直下で成立することになりました。
きっかけはレイカーズとの2連戦。
両試合とも最初から一方的な展開で、リードを奪うことも、追い上げることもないまま、ただただ20点差をつけられての完敗。
ルブロンとADの両エースも、30分弱しか出る必要のない余裕の試合展開でした。
このふがいない戦いぶりに、ハーデンのイライラが爆発したんですね。
試合後の会見で、「このチームでは物足りない。クレイジーだし、どうにもならない」と言い放ちました。
すると、この発言にチームメイトも反発し、ディマーカス・カズンズは「敬意がない」と批判しました。
この状況を見たロケッツ首脳陣は、「もはや修復は不可能」と判断。
翌日の練習にはハーデンを呼ばず、その日のうちにトレード先を決めました。
もちろん、ここまでトレードを決めずに引っ張ってきたのは、他チームに対して高い要求を設定して交渉することで、よりいい交換条件を引き出そうとしていたからでした。
おそらくは、シーズン半ばのトレード・デッドラインまで引っ張ることも視野に入れていたと思います。
ただ、思ったよりも早くチーム分裂の危機が訪れてしまったため、もう現時点でオファーされた条件で決めてしまうしかなくなったのだと思います。
ロケッツが他チームに要求していたトレードの条件は、若いフランチャイズプレイヤーとドラフト指名権でした。
例えば、噂の上がっていたチームで言うと、シクサーズならベン・シモンズ、セルティックスならジェイレン・ブラウンあたりを交換相手に要求していました。
タレントが小粒なヒートには、タイラー・ヒーロー&ダンカン・ロビンソン&ケンドリック・ナン&プレシャス・アチュワの若手陣と複数のドラフト権を要求しました。
ただ、現時点での返事はいずれも「NO」でした。
今後の展開によっては、それが「YES」に変わることもありうるため、ロケッツ的にはもうしばらく粘って交渉する考えだったと思います。
でも、それが待っていられない状況になってしまったため、現時点でOKな取り引きで手を打たざるをえなくなったのだろうと思います。
成立した取り引きはこんな内容でした。
<ネッツ>
SG ジェイムズ・ハーデン(←ロケッツ)
2024年2巡目指名権(←キャブス)
<ロケッツ>
SG ビクター・オラディポ(←ペイサーズ)
PG ダンテ・エクサム(←キャブス)
PF ロディオンス・クルークス(←ネッツ)
2022年・2024年・2026年1巡目指名権(←ネッツ)
2022年バックス1巡目指名権(←キャブス)
2021年・2023年・2025年・2027年1巡目指名権交換権(←ネッツ)
<ペイサーズ>
SG キャリス・ルバート(←ロケッツ←ネッツ)
2023年2巡目指名権(←ロケッツ)
<キャブス>
C ジャレット・アレン(←ネッツ)
SF トーリーン・プリンス(←ネッツ)
ネッツはハーデンを獲得する代わりに、キャリス・ルバート、ジャレット・アレン、トーリーン・プリンス、ロディオンス・クルークスと4人の若手を手放しました。
さらには、以前からトレードの噂が出ていたペイサーズのオラディポも絡んだ、4チームの大型トレードに発展しました。
ネッツは当初、スペンサー・ディンウィディもトレード要員として考えていました。
しかし、そのディンウィディが開幕直後にヒザの前十字靭帯断裂でシーズン絶望となってしまったため、交換要員に加えることができなくなってしまいました。
その足りない分を補填するため、ネッツは最大限の7年分のドラフト指名権を差し出すことにしました。
現在のルールでは、連続する年のドラフト1巡目指名権を差し出すことは禁止されています。
そこで、1年おきの3回分の1巡名指名権と、その間の年の4回分の1巡目指名権交換権をロケッツに提供することにしました。
1巡目指名権交換権とは、ネッツとロケッツでその年順位の高かった方の指名権をロケッツがもらえるという権利のことです。
つまりネッツは、ハーデン獲得と引き換えに、向こう7年分の1巡名指名権をロケッツに差し出すことにしたんですね。
これはもう、将来と引き換えにして、現在を買ったということです。
いわゆる“all in”ってやつですね。
デュラントとハーデンは既に32才、そしてBIG3の契約がギャランティーされてるのは今季と来季の2年間しかありません。
3年目は3人ともプレーヤーオプションになっているので、イコールFAになると考えていいと思います。
確実にBIG3が揃っているのは今季と来季の2年間しかなく、その間に優勝することが至上命題になります。
果たして、どんな結果となるのでしょうか?
<ネッツ>
PG:カイリー・アービング/ランドリー・シャメット/クリス・キオーザ/(スペンサー・ディンウィディ)
SG:ジェイムズ・ハーデン/ブルース・ブラウンJr./タイラー・ジョンソン
SF:ジョー・ハリス/ティモシー・ルワル・キャバロ
PF:ケビン・デュラント/ジェフ・グリーン/レジー・ペリー
スターターは豪華ですね。
カイリー、ハーデン、デュラントのBIG3に、3Pのスペシャリストであるハリスと身体能力の高いディアンドレの5人は、イースト最強のスタメンと言っていいでしょう。
願わくば、ディアンドレのところに攻守両面で貢献できるジャレット・アレンを残せていたら・・・・と思いますが、それは贅沢な話ですね。
問題はベンチです。
4人を差し出したネッツは、あと3人ロースターを補充する必要があります。
特にインサイドは手薄な状態になっているので、早急な補強が必要です。
オフェンス力は十分なので、ディフェンス面で貢献できる人材が欲しいですね。
スーパーサブになれたはずのディンウィディがいないのは本当に痛いです。
<ロケッツ>
PG:ジョン・ウォール/ダンテ・エクサム/(クリス・クレモンズ)
SG:ビクター・オラディポ/ベン・マクレモア/デイビッド・ヌワバ/メイソン・ジョーンズ/ブロドリック・トーマス
SF:エリック・ゴードン/スターリング・ブラウン/ジェイショーン・テイト/ケニヨン・マーティンJr.
PF:PJ・タッカー/ダヌエル・ハウスJr./ロディオンス・クルークス
C:クリスチャン・ウッド/ディマーカス・カズンズ/ブルーノ・カボクロ
ハーデンを放出したロケッツは、リビルディングに舵を切ったと言えるでしょう。
クリスチャン・ウッドを中心にしたチーム作りを進めていくことになると思います。
意外だったのは、一旦獲得したキャリス・ルバートをペイサーズに渡したことです。
先発すれば20点級スコアラーのルバートは、エースになれる能力がある選手です。
まだ26才と若く、25才のウッドとチームの核として考えてもよかった気がします。
年俸も16.2milと、エース級のスタッツを残せる選手にしてはかなり安価ですし。
しかし、そのルバートをオラディポと交換してしまったんですね。
オラディポの方が名前がある選手ですが、契約最終年ですぐFAになって出ていってしまうことが確実であるため、戦力として獲ったわけではありません。
既にヒートに行くのではないか?という噂が出ているぐらいです。
ロケッツは、ルバートをキープするよりも、オラディポが抜けた後のサラリーキャップの空き作りを選んだということになりますが、ルバートを手放すべきではなかったと思います。
<キャブス>
PG:ダリアス・ガーランド/マシュー・デラベドーバ
SG:コリン・セクストン/デイミヤン・ダットソン/ケビン・ポーターJr.
SF:アイザック・オコロ/ジェディ・オスマン/トーリーン・プリンス/ディラン・ウィンドラー
PF:ケビン・ラブ/ラリー・ナンスJr./ディーン・ウェイド/ラマー・スティーブンス
C:アンドレ・ドラモンド/ジャレット・アレン/ジャベイル・マッギー/マーキス・ボールデン
キャブスは、今回の大型トレードで一番得をしたチームかもしれません。
ジャレット・アレン、トーリーン・プリンスという先発級の若手を2人獲得しましたが、その代わりに差し出したのはダンテ・エクサムとドラフト権だけなんですね。
そのドラフト権も、2巡目が1つと、バックスからもらった1巡目が1つ。
毎年勝率トップクラスのバックスの1巡目指名権は、30位に限りなく近い下位指名権になりますから、それほど貴重ではありません。
つまり、ほとんどタダ同然で有望な若手2人を獲得できてしまったことになります。
特にアレンはまだ22才で、すぐにでも先発を任せられるビッグマンです。
契約最終年のドラモンドはいずれチームを去りますので、その後釜のセンターとしてチームの核になっていくでしょう。
フォワードのプリンスは、先発でも起用できるし、SFとPF両方のバックアップとしても起用できます。
これで、ドラモンドとケビン・ラブの両ベテランを手放して、本格的に若手中心のリビルディングを進めていくことができると思います。
そのきっかけとして、ジャレット・アレンをほとんどコストをかけることなくGETできたのは、とてもラッキーだったと思いますね。
<ペイサーズ>
PG:マルコム・ブログドン/アーロン・ホリデイ/TJ・マッコーネル/ジェイレン・レキュー
SG:キャリス・ルバート/ジェレミー・ラム/エドモンド・サムナー/カシアス・スタンリー
SF:TJ・ウォーレン/ダグ・マクダーモット/ジャスティン・ホリデイ/ブライアン・ボウエン
PF:ドマンタス・サボニス/ジャカール・サンプソン/キーラン・マーティン
C:マイルス・ターナー/ゴガ・ビターゼ
ペイサーズも、このトレードで得をしたチームだと思います。
オラディポの移籍話は、随分前からずっと噂に上がっていました。
ケガから復帰して以降は元の状態に戻れず、選手としての価値は下がっていました。
それでも、ペイサーズはオラディポに対し、年25milレベルの延長契約をオファーしていたようですが、オラディポ側がこれを断ったため、今季最終年の契約が切れたら他チームに移籍することは確実視されていました。
従って、仮に今回放出されなくても、トレードデッドラインまでにはどこかしらに放出されていたはずです。
そのオラディポの後釜として、ルバートを獲得できたことは棚ボタでした。
26才のルバートは、16.2/17.5/18.8milと比較的安価な契約を3年も残しています。
ケガ明けで調子の上がらない28才に25mil超の長期契約をオファーしていたことを考えれば、上り調子の26才を年10milも安くGETできたのはラッキーなわけです。
ペイサーズらしい堅実なサラリーキャップ・マネジメントだと言えます。
今回のトレードを総括すると、見た目にはネッツとロケッツの大型トレードなんですが、実は本当に得をしたのはキャブスとペイサーズではないかと感じています。
ネッツは確かに強烈なBIG3を形成できましたが、オフェンスのバランスやら、ケミストリーの問題やら、ディフェンスの問題やら、バックアップの問題やらと、抱えるリスクも相当大きくなり、うまくいく保証はどこにもありません。
加えて、優勝以外は失敗と見られてしまうプレッシャーの中で、結果を出すまでに残された猶予はわずか2年しかありません。
相当難しい舵取りを強いられることになるでしょう。
ロケッツは将来に向けての投資を行いましたが、ルバートをキープしなかったことが、後々響いてきそうな気がします。
オラディポをトレードしてさらに別の選手を獲得するか、サラリーキャップの空きを作ってオフにFAで補強することを狙っているかもしれませんが、そこでルバート以上の条件でタレントが見つかる保証はありません。
ロケッツの狙いはわかりませんが、あの時手放さなければよかった・・・・と後悔することになりそうな気がしてなりません。
一方、今回のトレードを成立させるための脇役であったはずのキャブスとペイサーズは、どちらも漁夫の利を得ました。
キャブスは、リビルディングを進めるために必要な若手コアを、大したコストをかけずに手に入れることができました。
ペイサーズも、退団が濃厚だったオラディポの後釜を、リーズナブルな若手有望株で補填することができました。
結局、ハーデンのトレードで一番得をしたのはキャブスとペイサーズでした、という結論になりそうな気がします。